原作:新田次郎「劔岳 点の記」
監督・撮影:木村大作
柴崎芳太郎:浅野忠信 宇治長次郎:香川照之
生田信:松田龍平 小島烏水:仲村トオル
皆さまにお願い
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2年間に亘った東映の映画、剣岳「点の記」の撮影が7月末をもって終了しました。
私は山岳ガイドと言う立場で役者やスタッフを安全にロケ地まで案内し、ロケ中も事故のないよう皆さんの安全確保を行う仕事でした。
初めての仕事は、昨年4月上旬の天狗平でした。
いきなり100年前の服を着せられ、どデカイ背負子を担がされ、天狗山の山頂までのラッセルでした。
これはその後も時々行われ、危険地帯における山岳ガイドによる役者の吹替えでした。
私達のガイドクラブではこれまでも、テレビのドキュメントやドラマ、バラエティーの仕事をしてきましたが
映画は始めてでした。
似たようなものだろうと高を括っていましたが、撮影が始まってみるとその凄さに圧倒され続けました。
ガイドの親方の多賀谷さんに、詳しい仕事の内容も聞かずに参集、通常のガイドの仕事とは大きく違う予感がし、この先どんな事になるんだろう思いました。
まず、
一番圧倒されたのは何より木村大作監督でした。これまで出会った事のあるどの人よりも強烈でした。
「ばかやろう!」怒号の嵐
近頃、普通の大人が人前であれだけひどく怒鳴られるところを見る事は無いと思います
最初は「エ〜ッ!?」暴君ぶりにちょっと腹も立ち、
何故こんなに怒鳴られても仕事をするのか理解しがたいものがありました
普通、仕事は何とか楽をしたいと思うのが人情だと思いますが
スタッフや役者は木村監督の素晴らしさ、凄さを十分に理解して
参加しています。どんなにひどく叱られようと誰ひとりくじける人はいません。
監督は激しく怒鳴るけれどそれ以上の信頼をスタッフに持っています。
お互いに強い信頼関係で結ばれたプロの集団は一つの作品を仕上げると言う目的に向かって
常に全力で各自の仕事に取り組んでいました。
長い時を共有する事により、だんだんと
映画にかける狂気にも近い情熱が監督をそうさせている事を理解できるようになりました。
主なロケ地は立山周辺ですが、5月の五色が原や奥大日などはほぼ雪の上で
アイゼン、ピッケルを使った本格的な登山になります。
スタッフはそれぞれ専門分野のプロですが山に関してはもちろんンド素人でした。
ど素人が個人装備の他に撮影用の装備を担いで歩くことは初めは困難を極めましたが
2年目になると驚くほど歩けるようになりました。
撮影が終わりに近づく頃には皆さんの登山靴や装備は使い込まれ
普通の登山者なら5年分をも超えるくらい消耗していました。
生活に関しては何週間も山小屋生活です。地元の山小屋は大変協力的で、スタッフにも大変評判が良かったです。
しかし最盛期の週末など山小屋が混んでいる時にも下山せず、テントに泊まって撮影を続けました。
なれないテント生活にも誰も文句一つ言わない、プロのプライドは素晴らしいのひとことにつきます。
個人的に思い出深いのは墜落シーンなどのガイドによる吹替えです。
吹替え役は本物の役者さんと体型が似ている者が選ばれます。
一番悲惨な吹替え役は名クライマーの黒田君でした。
35度を超える硬い雪の斜面の滑落シーンでは100メートルに及ぶ滑落をNG、4回の後にようやくOKです。
もともと落ちない男が受身もとれない役ですから、なかなか上手く行かず全身ずぶ濡れになり(当時ゴアはありませんから)見るも悲惨でした。自分の低い身長をこの時ばかりはありがたいと思いました。
ぼくもかなり吹替えで出演しましたがスクリーンでは絶対に分らないと思います。
長期の撮影も無事故で過ごしてきましたが今年の6月に別山岩場での撮影の際、上部からの落石で
録音技師が頭蓋骨を骨折し脳挫傷で重傷を負われました。
ガイドとしては痛恨の極みです。
しかし天候にも恵まれ、ガイドもフルメンバー体制だった事と山小屋からの応援などを得て
事故発生から1時間半ほどで病院に搬送できる事ができました。
この時ほど普段の救助訓練がいかに重要かを思い知らされました。
あれだけの衝撃的な出来事を目の当たりにしたスタッフの方は如何にプロとは言え
もう山に上がれないんじゃないかと思いましたが
ほとんどのスタッフは撮影再開時には山に上がる事ができて本当に良かったと思います。
最後の撮影はほとんどのスタッフが下山した後、最小限のスタッフとガイドで
八つ峰6峯Aフェースと源次郎尾根、長次郎の頭からの撮影です。
テントを張って機材を上げ、カメラマンには懸垂下降とユマーリングの練習をしてもらいました。
苦労して撮った各ピークからの俯瞰は空撮にはないリアルで素晴らしいカットになったと思います。
何事にも妥協せず最後まで本物にこだわった作品は誰が見ても感動することと確信しております。
映画に携わった者としてではなく、1人の観客として映画の公開が楽しみです。
撮影後記
ガイド 佐伯岩雄